彼の止まった時間と過ぎ行く彼の季節
四 よく晴れた休日に
雲ひとつない晴れた日に
気に入りのリネンのシャツを着て
柔らかくなったジーンズを履いて
君と街を歩きたい
人が多く行き交って
誰も僕らになんて見向きもしない
そんな中を歩いて何か美味しいものを食べにいく
そしてくだらない話をして
笑って
手を繋いで帰れたら……
18:44 - 2016年5月11日
真っ青な空に、先ほど洗濯機から出してきたばかりのシャツを透かす。
洗い立ての湿ったTシャツは真っ白で、石鹸の匂いをほのかにまとっている。彼はシャツのシワを手早く伸ばし、ハンガーにかけて物干し竿へと干していく。
夏の空は高く、今日の空は澄み渡る青空で、洗濯物がよく乾きそうだった。
こんな日が休日でよかったなと、彼は三階のベランダからの景色に微笑む。
「なあ、今日さ、どこか行きたいところある?」
部屋の中から声をかけられる。同居人だ。
同居人は、クローゼットから出してきた新品の硬いジーンズを履きながら、ベランダへと近づく。
「そうだな……、明日の朝食のパンも買いたいし……何か美味しいものでも食いに行こうか」
タオルを干しながら彼は同居人を見て答えた。
「俺、トンカツ食べたいな」
同居人は着替えたばかりのシャツの裾を捲り上げ、薄く筋肉のついた腹をぽりぽりと掻く。その様子を見て彼はくすりと笑った。
「じゃあ、トンカツ食べに行こう」
彼は同意して、洗濯カゴを抱えて部屋の中へと入る。すると同居人は彼を捕まえてその肩に腕を乗せ、背中にもたれかかる。彼は片付けを中断させられて、眉をひそめた。
「……あの、重いんですけど」
「うん。乗ってるからね」
同居人はふにゃっとだらしなく微笑みながら彼の頬をフニフニと突く。
「もお、片付けないと出かけられないだろう」
「そうだな。そろそろ腹も減ったしな」
彼に軽くあしらわれ、同居人はおとなしく身体を放した。
同居人が放れて身体が軽くなった彼は、洗面所へ向かいながら同居人に念を押す。
「家ではいいけど、外ではそういうことやるなよ」
「え〜。いいじゃん減るもんじゃねえし」
「そういう問題じゃないの」
「はいはい。大丈夫だって、それくらい俺にもわかるよ」
二人で外を歩く時、彼らはどんな風に見えているのだろうか。
恋人?
友達?
同僚?
先輩と後輩?
彼らが自然にどこにでもいるカップルとして見られるようになるまで、あとどのくらいの時間が必要なのだろうか。
出先で、ふと手を繋ぎたくなる時。
ふと、頬や髪に触れたくなる時。
互いの腕にすがりたくなる時。
その衝動を抑える必要がなくなるのは、いつのことだろうか。
彼は洗面所へ洗濯カゴを片付け、部屋に戻る。
「行こうか」
「ん」
同居人は、着ているシャツのシワを整えながら頷く。
「外での俺たちは友達同士な」
「ん。いちゃいちゃは個室で」
いつもの確認作業をして、二人は困ったように笑う。
ああ、人目など気にせずに、君と手をつないで街を歩けたなら、どんなに幸せだろうか。